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2025.10.31(金) お知らせ

■エンゲージメント調査を経営の武器に変える——健康診断レポートを机に放置していませんか?

エンゲージメントを測るだけで終わっていませんか

人的資本経営の時代を迎え、多くの企業がエンゲージメント調査を導入しました。しかし、調査を実施するだけでは意味がありません。真に組織を変革し、持続可能な成長を実現するためには、調査結果を戦略的に活用する仕組みが不可欠です。

エンゲージメント調査は組織の健康診断

エンゲージメント調査の結果が思わしくなかった事業部の組織開発に関する、HRBPや戦略人事のご担当者様からの相談が増しています。この背景には、人的資本経営への注目の高まりと、組織課題の可視化ニーズの拡大があります。

エンゲージメント調査は、単に社員の意欲や満足度を測定するためのものではなく、組織の状況を定点観測できる優れたツールです。社員の成長実感、経営陣への信頼度、マネージャーへの信頼とそのマネジメントスキルの状況、さらには社員同士の関係性など、多角的な視点から組織の健康状態を照らし出すことができます。これらの情報は、職場組織の強みと弱みを客観的に把握し、改善の優先順位を決定するための貴重なデータとなります。

経営陣に物申すチャンスでもある

また、エンゲージメント状況に大きな影響を与える経営陣のリーダーシップに関する項目も注目です。従来、経営層のリーダーシップやマネジメントスタイルは、人事部門が指摘しにくいテーマでした。しかし、エンゲージメント調査で社員の声が可視化されることで、人事部門が客観的なデータに基づいて経営層に改善を提案できる環境が整いつつあります。これは組織変革の取り組みにおいて極めて重要な転換点といえるでしょう。
経営層のリーダーシップへの介入事例はこちら:「エグゼクティブ・コーチングで心理的安全性のある職場を実現」 | PFC

本記事では、エンゲージメント調査を効果的に活用している企業に共通する特徴を洗い出し、HRが実践できる6つのポイントとしてまとめました。各項目には詳しい実践事例へのリンクもありますので、ぜひご覧になってみてください。

エンゲージメント調査結果活用のポイント1)
非財務の経営指標として役員会で議題に上がっているか?

エンゲージメント調査を真に活用するためのポイントの一つ目は、エンゲージメントスコアが非財務の経営指標として経営ダッシュボードに組み込まれ、経営会議で定期的に議題に上がっていることです。このような企業では、経営会議において、四半期ごとの売上や利益の報告と並んで、エンゲージメントスコアの推移や企業風土の状況が日常的に議論されています。人的資本経営が実装されている先進企業では、社員のエンゲージメント状況は単なる人事部門の管轄事項ではなく、重要な経営マターとして位置づけられているのです。

人的資本経営の本質は、人材を単なるコストではなく、価値を生み出す資本として認識することにあります。この認識が経営層に浸透している企業では、エンゲージメントスコアの低下は業績悪化の先行指標として捉えられ、迅速な対応が必要な事案とされます。逆に、エンゲージメントスコアの向上は、将来の業績向上につながる投資の成果として評価されます。

さらに、このような経営姿勢は、組織全体に強いメッセージを発信します。エンゲージメント向上が経営の最優先課題の一つであることが明確になれば、事業部門や管理職も本気で取り組まざるを得なくなります。人事部門の声だけでは動かなかった組織も、経営トップのコミットメントがあれば変革への推進力が格段に高まるのです。

参考記事
■人事は誰に、どんなタイミングでエグゼクティブ・コーチングを活用しているか?エグゼクティブ・コーチングのリアル・トレンド | PFC

エンゲージメント調査結果活用のポイント2)
事業部トップのオーナーシップ:責任の所在は明確ですか?

ポイントのふたつめは、事業部トップがエンゲージメント向上に対して明確なオーナーシップを発揮していることです。人的資本経営が真に実装されると、人材に関する執行責任は人事部門から事業部門へと移行します。これは、人材マネジメントが事業戦略と不可分であるからに他なりません。

事業部トップが人的資本のKPIや目標にコミットすると、改善に向けて具体的な行動を起こします。例えば、ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DE&I)の推進や女性管理職比率の向上といったKPIに対しては、単に数値目標を掲げるだけでなく、実現のための環境整備に積極的に関与することでしょう。
例えば、女性管理職候補者の顔と名前を把握し、彼女たちが職場でリーダーシップを発揮しやすい環境を整備します。これには、職場風土の改善、柔軟な働き方の導入、メンタリングプログラムの提供など、多岐にわたる施策が含まれます。事業部トップがスポンサーシップを発揮することで、これらの施策が単なる人事施策ではなく、事業戦略の一環として位置づけられ、実効性が一段と高まります。

事業部トップのオーナーシップ発揮は、組織文化の変革にも大きな影響を与えます。トップが率先して人材育成やエンゲージメント向上に取り組む姿勢を示すことで、管理職や一般社員にとって、めざす組織文化に向けたロールモデルとなります。結果として、組織全体が人材を大切にする文化へと動き出すのです。

事業部主導の風土改革事例はこちら:村田機械株式会社・繊維機械事業部様 ~PFCの組織開発コンサルティング事例等を紹介|PFC

エンゲージメント調査結果の活用ポイント3)
HRBPの戦略的役割:信頼されるビジネスパートナーになっていますか?

ポイントの3つ目は、人事部門が事業部トップや管理職から改善の相談を受けるビジネスパートナーとしての関係性が構築されていることです。ビジネスパートナーとは、単に人事制度を運用したり、採用活動を支援したりするだけの存在ではありません。事業戦略を深く理解し、その実現に必要な人材戦略を提案し、実行を支援する戦略的パートナーです。

エンゲージメント調査を効果的に活用している企業では、事業部人事が戦略のパートナーとして事業部トップや管理職から信頼されています。エンゲージメント調査の結果が出た際には、その解釈や活用方法について現場から積極的に相談が寄せられます。また、改善に向けてどのような取り組みをすべきか、どのようなリソースが必要か、といった具体的な議論が日常的に行われています。

このような関係性を構築するためには、人事部門側にも高度な専門性が求められます。組織開発、人材育成、リーダーシップ開発などの専門知識はもちろん、事業特性や市場環境への深い理解も必要です。さらに、データ分析能力やコミュニケーション能力も欠かせません。PFCでは、HRが社内講師になって研修やワークショップを実施することで、人事戦略・施策、職場のエンゲージメントスコア、管理職をつなぐ力量を養えると考えています。

【事例紹介】Amazonのリーダーシップ育成戦略「SLII®の導入と定着支援」 | Blanchard Japan

いかがでしたでしょうか。

人的資本経営の時代において、エンゲージメントは企業の競争力を左右する重要な要素であることに異論のある人はもはやいないでしょう。優秀な人材を惹きつけ、育成し、定着させるためには、高いエンゲージメントが不可欠です。また、イノベーションを生み出し、変化に適応し、持続的に成長するためにも、社員のエンゲージメントが鍵となります。

今回ご紹介した3つのチェックポイントは、エンゲージメント調査を効果的に活用するための指針です。自社の現状をこれらのポイントと照らし合わせ、不足している要素があれば強化することをお勧めします。残りの3つのポイントは、12月にウェブサイトに掲載し、メールマガジンでもご案内します。

エンゲージメント向上は一朝一夕には実現しませんが、組織開発アプローチをもって継続的に取り組み、手ごたえとやりがいを感じる取り組みに仕立て上げていく、人事の手腕が問われています。ぜひ後編もお楽しみに!


山田 奈緒子(やまだなおこ)
ピープルフォーカス・コンサルティング
取締役
グローバルな人事戦略構築の課題に直面する日本企業へのソリューション提案における第一人者。
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