東日本大震災で私たちは改めて自然災害の脅威を思い知らされましたが、世界各地では、天災や紛争によって厳しい生活を余儀なくされている人々が数多くいます。ジェン(JEN)は、アフガニスタン・イラク・スーダン・パキスタン・スリランカ・ハイチ、そして東北と、国内外のそうした地域にスタッフを派遣し、現地の人々が自立できるよう長期間にわたって支援をするNPO(特定非営利活動法人)です。 たとえばスーダンでは内戦からの帰還民への衛生施設事業や給水事業、イラクでは小・中学校修復や衛生教育事業、東北では心のケアや生活再建の支援等を行っています。 そのジェンの悩みは、リーダー育成にありました。過酷な環境において、被災者に寄り添う心、現地組織をまとめる統率力、現地当局や国連機関などと交渉する力、メンバーを育成する器など、幅広い力量を有したリーダーが世界各地に必要でした。また、これまではジェン本部から日本人スタッフが現地に派遣され、現地の人々をまとめる立場に就いていましたが、それではもはや追いつかず、現地に根ざして継続的に支援活動を続けることも難しくなってしまいます。そこで、ジェンでは、新しい試みとして、現地スタッフを中心としたリーダー育成プログラムを立ち上げることとなったのです。 PFCがプロボノ*として支援したこの取組みは、NPOでの事例ではありますが、海外のローカルスタッフの育成が課題である企業にとって多くの示唆を与えてくれるものです。 ジェンの理事・事務局長である木山啓子さんへのインタビューを中心に、「CHANGE」と名づけられた本プログラムの背景や概要についてご紹介します。
(*)阪神大震災の1995年がボランティア元年なら、2011年は「ソーシャル元年」と言われ、企業の社会的責任が大きくクローズアップされた年だった。特に、プロボノ(Pro Bono)と呼ばれる「本業を通じた社会貢献」は、支援をする側、される側の双方へのメリットが大きい。PFCでは、売上の1%を社会貢献に充てるというポリシーのもと、この10年来、寄付のみならず様々なプロボノをNPO法人やNGO団体に対して行ってきた。そうした団体を応援したいという気持ちから行っているということは言うまでもないが、支援する側のメリットのひとつとして「リバース・イノベーション」(新興国で製品や技術を開発して、先進国にも同じものを展開すること)が挙げられる。今回のジェンのCHANGE支援のプロボノでも、われわれPFCは、アフリカや南アジアの難民キャンプや被災地といった環境にいる受講者に、どのように継続的に学習する環境を与えるかを模索した結果、ラーニングSNSという極めて安価かつシンプルなツールにたどりついた。この経験は、日本企業における通常研修のフォローアップツールとしても大いに検討の余地があり、われわれもこのプログラムの支援により大きな成果を手に入れたと言える。
クライアント事例
特定非営利活動法人ジェン様
世界各地で「リーダーを育てるリーダー」を育成
CHANGE (Creative Humanitarian Approach for the New Global Efforts)の概要
「CHANGE」は、ジェンの幹部が、ジェンで求められるリーダー像について、何度も議論を重ねることから始まりました。できあがったものを、PFCが「ジェン・バリューとコンピテンシー」という形に体系立てて整理。次に、リーダー育成の仕組みや方法論について、ジェンとPFCで議論を重ねながら作り上げて行きました。そして、アフガニスタン、イラク、エリトリア、スリランカ、パキスタン、南スーダン、日本の国籍からなる9名の候補者が選ばれました。 次の課題は、世界各地に散らばる候補生を、いかに効果的に育成するかということでした。集合研修という形で何度も集めるのは難しい。どうやって継続的に成長を促進するかを徹底的に議論した結果、次のような仕組みができあがりました。
- ジェン幹部が各候補者にメンターとして付き、2ヶ月に1度、電話かビデオ会議でメンタリング
- ジェン幹部がアセッサー(評価者)となり、半年に1度、360度ヒアリングを元に、候補者のコンピテンシーレベルを審査、候補者にフィードバック
- キックオフを兼ねた1週間のワークショップを日本で開催、その後、1年間を通じて、「ラーニングSNS」の場で、課題付与や意見交換
プログラムが実現するまで
木山氏
PFC
木山氏
PFC
木山氏
PFC
木山氏
ワークショップにパキスタンから参加したアズマット(Azmat Ali)さんからは 「このワークショップを通じて、 何に向かって力を注ぐべきかがより明確になった。ここで学んだことは、現場に戻ったら、部下たちにも共有したい」とのコメント。また、ワークショップの進め方についても「レクチャーばかりでつまらなくなるかとも心配していたが、たくさんの議論ができて、とても面白い。学ぶ事すべてがエキサイティングだ」と笑顔を見せてくれました。
PFC
木山氏
PFC
木山氏
「ライスペーパー・シーリング」という表現をご存知でしょうか。アメリカで、組織において女性が見えない壁で昇進が阻まれている状況のことを「グラスシーリング」(ガラスの天井)といいますが、それに習って、日本企業では外国人社員が昇進できない状況のことを「ライスペーパー・シーリング」と外国人が揶揄することがあります 。ジェンの取組みは、世界各地にちらばる現地スタッフが、その天井を突き抜けるきっかけを与えるものでした。プログラムに選ばれた現地スタッフのモチベーションが著しく向上したことはいうまでもありません。また、とかく一過性に終わりがちな研修プログラムでなく、現地の上司と連携しながら、1年間かけて育て、参加者同士のネットワーキングも強化するという多層的な展開を図っています。現地スタッフの育成に取り組もうとしている担当者の皆様、過去に取組み、うまく行かなかった体験をお持ちの皆様、ぜひ、この事例を参考に、検討してみませんか。