コラム

2016.02.10(水) コラム

トップリーダーに学ぶ「勝利のチームマネジメント」: 森保一監督

-FUJI XEROX SUPER CUP 2016に出場するサンフレッチェ広島 森保一監督に「リーダーとしての姿勢」そして「チームづくりに対する考え方」を聞きました。

リーダーとしての姿勢
後方からサポートしながら、チームの連携を生み出す

まず最初に、リーダーシップのスタイルを把握するため、自己評価アンケートに回答していただきました(6点満点で評価)。

【森保一監督のリーダータイプ】

リーダー論-1知らず知らずにチームが一つにまとまることを目指す

自己評価結果には納得しています。チームに対しては、方向性だけを示したら、あとは「皆でやっていこうよ」というスタンスでいます。監督の私自身がチームを牽引するのではなく、チーム全員が「頑張った」と思えるような方法でチームを運営したいと思っています。目標をピンポイントに絞るのではなく、目標自体に一定の幅をもたせて、個性豊かな選手やスタッフが自由に活動しながらも、バラバラだった集団が気づいたら一つの方向に向かってまとまることを目指しています。前に出て引っ張るというより、後ろから見守りながら緩やかに動きを誘うイメージです。よほど集団からはみ出てしまいそうなメンバーに対しては、吠えたりしていますが。

リーダー論-2結果だけにこだわらず、選手の成長を手助けしたい

もちろん選手には「結果にはこだわれ」と言っています。しかし、上手くコントロールできないこともありますし、そこで出た結果は結果でしかありません。結果だけにこだわりすぎるのではなく、サンフレッチェ広島にいたことで、選手個人が努力して伸びて、将来の成長に繋がれば良いと思っています。仮にこのチームで成功できなくても、このチームにいたから成長があったという場を提供していきたいです。選手の成長を手助けしたいという気持ちが強いですね。

チーム作りに対する考え方
個の成長を通じてチームの成長を促す。監督の仕事は“観る”ことから始まる

-チーム作りのお考えについてお伺いします。チーム作りの要諦は3つ「ベクトル(短期的な目標や方針の明確さ/将来像や価値観の共有)」・「プロセス(チーム内の決めごと/創造性や柔軟性)」「ヒューマン(個々の能力向上/チームとしての相乗効果の最大化)」と言われていますが、重視する順に並べてください。

【森保一監督の並べた結果】

チーム論-1選手一人ひとりが成長し、チーム全体で理解し合うことが高度なチームワークを生み出す

チームの成長というのは選手個人の成長を通じて促進されるものだと思います。また、選手が良いパフォーマンスをするためには、チームメイトに自分の良さを分かってもらい、互いに支え合って協力することが不可欠です。良い結果を出すために選手一人ひとりが努力して成長し、互いに理解し合うことが、良い結果を生むための高度なチームワークを醸成します。これらは、矛盾することではないですし、どちらとも大切な考え方です。強いて言えば、チームより優先されるものはないということです。サンフレッチェ広島には、そのような選手はいませんが、“チームの和”を乱すようなことがあれば、チームを出ていってもらうことも考えます。それほど、“チームの和”というのは最も優先すべきことです。

チーム論-2“観る”ことで、選手の変化に気づいてあげたい

監督の仕事は“観る”ことから始まると思っています。よく観ているのは顔の表情です。「少しでも変化に気づいてあげたい」「分かってあげたい」という気持ちで選手一人ひとりを観ています。日々の変化を注意深く観ていると、例えば寝不足だなとか、何か悩んでいるなとかが、分かります。

監督に観られているということは、選手のモチベーションアップにも繋がるだろうし、プラスになると考えていますが、逆にプレッシャーになるのであれば、それは本意ではありません。あくまでも選手が持っているものを100%引き出してあげたいという気持ちから彼らを観ています。

チーム論-3:「優勝」の前に、まずは「残留」

Jリーグでプレーする以上、どのチームもシーズンの明確な目標を掲げていると思います。ずばり「優勝」です。チームが壁にぶつかった時などは改めてベクトルを修正する必要もあるでしょうが、ことさらに目標の重要性を強調する必要は全くないと思います。それよりもむしろ、目の前のことに集中し、やらなければならないことを着実に積み上げた先に、自然と目標が見えるようにしたいのです。

ちなみに私は、目標を何段階かで設定しています。ゴールは「優勝」ですが、シーズンの最初には同時に「残留」も掲げます。優勝した次の年の目標が残留だなんておかしいかと思うかもしれませんが、残留するための目安となる勝ち点40を一日でも早く達成することを目の前の目標としています。残留をいつまでに確定させるかを設定することで、さらなる高みの優勝という目標に繋がります。

チーム論-4監督は“人の心を預かる仕事”。今だけ強ければいいのではなく、サッカー界に残るチームを作りたい

次の成功のために、変えるべきことは常に考えています。考えた結果、変える必要がないと判断することも多々あります。しかし、傍目では変わっていないようなことでも、決して現状維持ではなく、必ず何かしらのバージョンアップはしています。ベースは同じでも、技術面、メンタリティ面、体力面などの質を向上させる設定を行い、苦しみながらも乗り越えているつもりです。これを愚直にやり続ければ、気づいた時には相手がついてこられなくなるわけですよね。

監督は、基本的に“人の心を預かる仕事”だと思っています。選手達がこのチームに属している間に、「他ではできない良い経験が積めた」「ここで個人の能力が伸びた」ということが実感できなくてはだめなのです。そのためにも監督は、選手達の努力と成長の過程を、よく見ていて評価してあげなければならないのです。サンフレッチェ広島は、選手を育成しながらチームとしても強くなることが至上命題です。私が、サンフレッチェ広島で育ち、このチームの監督であることも影響しているのかもしれません。

私は、チームは今だけ強ければ良いという考え方はしていません。私がいなくなったとしても、このチームに考え方だけは残っていくし、脈々と受け継がれていくものです。そして今やっていることが、将来のサッカー界に残っていくのだと信じています。

FUJI XEROX SUPER CUP 2016に向けての意気込み

日本で2チームだけが戦える喜びをかみしめたい。タイトルをかけて全力で獲りにいく。

-最後に、FUJI XEROX SUPER CUP 2016に向けての意気込みを聞かせてください。オフ後でシーズン前という難しさがあると思いますが、監督はどのように位置づけられていますか。

日本でたった2チームだけが出場することができる公式戦であり、その場に立てる喜びを存分に感じながら戦いたいと思います。我々を支えて下さっているすべての方々に、あらためて感謝の気持ちを伝えたいですし、そのためにもキャンプで準備してきたことはすべてぶつけたいと思います。FUJI XEROX SUPER CUP 2016は、タイトルを懸けた試合ですし、シーズンの重要な試合の一つと位置づけています。チームとして全力を懸けて獲りに行こうと、選手達には意識を共有できています。

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