コラム

2016.07.01(金) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 55:スポーツは、もっと世界の社会問題解決に貢献できる(後篇)

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第55回 スポーツはNGOも国家権力も越えて、もっと世界の社会問題解決に貢献できる
~FIFAコンサルタント・杉原氏とFIFA紛争解決室仲裁人・山崎氏とのセッション(実施後内容概略・後篇)~

今回の稿は、先日のGEI(グローバル・エンゲージメント・イニシアチブ)有志会、「スポーツは、NGOも国家権力も越えて、もっと世界の社会問題解決に貢献できる」の後篇だ。前篇に続き、もう1人のスピーカーの、世界に10人しかいないFIFAコンサルタントの杉原海太さんの話の内容概略を共有したい。

杉原さんの話のテーマは、「スポーツの国際的価値実現」だった。今回も、私の理解で要約する。

まずは、杉原さんがFIFAマスター(FIFAが主催する修士課程プログラム)へ33歳で留学したところから話が始まった。
元々はコンサルティング会社で働くビジネスパーソンだったが、実は33歳まで海外に一度も行ったことがなかった。サッカーの仕事がしたいと考えるようになったときに、FIFAマスターの存在を知り、いきなり海外に出てこのプログラムに挑戦した。今でこそ、サッカー元日本代表の宮本恒靖さんが取得して一気に有名になったが、当時FIFAマスターというのは、世間では全く知られていない存在のプログラムだった。

FIFAマスター修了後、マレーシアのクアラルンプールでのアジアサッカー協会の仕事を経て、2年前からFIFAコンサルタントとして働いている。FIFAコンサルタントというのは、例えれば、ブラッター会長やプラティニ副会長などが「永田町(政治家)」とすれば「霞が関(官僚)」だ。普段は東京に居ながら、スイスの本部と緊密にコミュニケーションを取りながらサッカー界の様々なルール・施策作り(Jリーグでも導入されているクラブライセンス制度もその一例)を行っているが、年の1/3は海外出張し、世界各国のサッカー協会やリーグに対して運営のコンサルティングを行う。

スポーツの世界の歴史を振り返ってみると、40年くらい前は、ほぼすべてのスポーツがアマチュアだった。ロス五輪辺りから、スポーツビジネスの概念が生まれ、スポーツは自分でお金を稼ぐ事が可能となった。
日本のスポーツでは、多くのスポーツがマネタイズ(産業化といっても良いだろう)に苦労している事から、とかくマネタイズの議論が多くなるが、マネタイズしたお金をきちんと普及や育成といった分野に投資し、そのスポーツが自立するというサイクルが回っているかという点も同様に重要だ。お金が集まる、そしてそのお金が普及や育成に投資される事で、競技人口が増えたり競技のクオリティが高まり、その結果再びお金が生み出せる・・・といった持続的なサイクルが回ってはじめて自立できる。そのサイクルを回すためには、スポーツの世界にも「マネジメント」と「ガバナンス」が必要だ。

これまで、アジア、アフリカ、オセアニア、カリブ等、世界各地を回ってきたが、どこに行ってもあらためてサッカーはすごいと感じることばかりだ。世界で最も普及しているスポーツだということのすごさだ。そしてその世界で最も普及しているスポーツの世界選手権であるワールドカップに多くの人が出たいと願う。だから、価値がある。それに尽きる。FIFAに「力」があるとすれば、それが理由だろう。
FIFAはその「力」を、世界の為にもっと使えると考えている。人種差別撲滅、世界平和など、世界の問題にもっともっとFIFAが貢献できると考えている。

世界で起きていることとサッカーの世界で起きていることは似ている。20年前までは、サッカーの世界も、FIFAを頂点に国ごとに分かれ、それぞれがそれぞれにやっていくのがメインの時代が続いていた。しかし、一気にグローバリゼーションが進み、人もお金も国をまたいで動くようになった。国を超えた選手の移籍がたくさん起きるようになった。ビジネスの範囲も国をまたぎ、例えばイングランドのクラブはイングランドだけではなく東南アジアなど他の地域でビジネスをするようになった。資本も同様で、ヨーロッパのクラブの資本にアラブやアメリカが入ってくるようになった。例えば最近だと、イングランド・プレミアリーグのマンチェスターシティというクラブは、アラブ人が持っているクラブだということは多くの人がご存じだろう。マンチェスターシティは、ニューヨークシティ、メルボルンシティといったクラブも運営するようになっていて、日本の横浜マリノスの株も持って資本参加しており、多国籍企業といった感じだ。
サッカーのビジネス的側面はグローバリゼーションにより大きくなった。しかし、サッカーが、スポーツが、世界の社会課題を解決できるツールとして捉えられることは、まだまだ稀だ。

社会問題の解決とスポーツの連携は日本でも可能性がある。日本特有の社会問題にも、日本のスポーツが目をつけて、その解決に向けた動きをやっていけばよいと考えている。働き方、待機児童、高齢化など、日本の社会問題は山積みだが、それらの解決にスポーツは役立てる可能性がある。ビジネスの世界では「ビジネス+CSR」とも言えるCSVの考え方が広まり始めているが、その概念はスポーツによる社会課題解決に非常に親和性がある。
現在のスポーツビジネスは露出ビジネスが基本で、注目されないマイナースポーツには厳しい。そういったマイナースポーツにおいて、社会課題解決ツールとしてのスポーツのCSV的活用は「稼ぐ手段」の可能性もあるし、それができれば、そのスポーツに真の持続可能性をもたらすことができる。
このようなモデルを実現してゆくには、スポーツ側がスポーツの社会課題解決力を自覚し、企業側に発信してゆく事が必要であろう。


サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 54:スポーツは、もっと世界の社会問題解決に貢献できる(前篇)
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 56:多様な価値観が存在する社会