コラム

2016.08.01(月) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 56:多様な価値観が存在する社会

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第56回 相模原での事件から考える多様な価値観が存在する社会の必要性
~お金がないと幸せになれないという経済一辺倒の価値観から脱却して、例えばサッカーがうまい方が幸せ/サッカーが見れる方が幸せという価値観があってもよい~

先日、大変痛ましい事件が起こった。相模原の障害者施設で、19人が殺害された。報道によれば、日本で起こった戦後最悪の殺人事件ということらしい。
何らサッカーと関係ない話だと思う人が多いかもしれない。しかし、どうしてもこの事件について触れておきたかったことに加え、また、私の中でサッカーと結びつく部分があったので、今回の稿はこのテーマから書き始めたい。

この事件について、福島智氏が毎日新聞に寄稿した記事が話題になったという話をある人から聞いた。(記事はこちら)福島氏のメッセージは、つまるところ、「経済」のみを重視する社会への警鐘だ。経済のみを重視する社会とは、「労働能力」や「生産性」という唯一の軸において、人間の価値を評価してしまっている社会だ。人間の価値はもっと多様で、当然だが、労働能力や生産性、つまり、お金を稼げる力を持っているかどうかだけで決まるものではない。
しかし、今の世の中は、まったくもってお金だけが唯一の尺度であるかのような価値観が形成されているのではないか。

例えば、毎年発表される「世界の幸福度ランキング」の2016年版を見ると、幸福度とお金には明らかに一定の相関関係がある。所得別の純粋幸福度(世界平均)のデータは次の通りだ。
高所得者 70
中高所得者 68
中所得者 57
中低所得者 40
低所得者 32
世界全体の傾向として、「その国の中で所得が高い人のほうが幸福度も高い」ということが分かる。

ただ、データを見ていて大変興味深いと思ったのは、「所得格差」が「幸せ」にどの程度影響するのかというのは、国によって様々だという点だ。例えば、2016年の幸福度1位の国はコロンビアだが、
低所得者の純粋幸福度 = 77 vs 高所得者の純粋幸福度 = 87
と、「収入が高いほうが幸福度が高い」という傾向は他国同様にあるものの、その差はわずかに10しかない。世界平均は38なので、所得格差が幸福度にほとんど影響を与えていないことが分かる。ちなみに、低所得者の純粋幸福度77という数値は、高所得者の純粋幸福度(世界平均)70を上回る値だ。

一方で、先進国の値を見ると壊滅状態だ。例えば、イギリスでは、
低所得者の純粋幸福度 =-10 vs 高所得者の純粋幸福度 = 67
と、その差は77もあり、世界平均の2倍以上だ。アメリカは76、ドイツは52、フランスは48という結果で、こうしたG7の国々では、収入の多寡が幸福度に大きな影響を与えてしまっており、また、国民全体の幸福度も低くなっている。ちなみに日本の純粋幸福度は52で、先進国の中では上位ではあるものの、世界平均を下回る28位だ。

先進国を幸福後進国にしてしまっている理由は多々あるだろうが、とにかく、「お金がないと幸せになれない」と思い込んでいる社会であることが、根底にあるのではないか。
低所得者であっても十分に幸せを感じることはできる。幸せはいろんなことで感じられる。誰かや何かに貢献する。感謝をする。新しい経験をする。自然の中に身をおく。家族・友人との絆を大切にする。芸術やスポーツに興じる。等々。こうしたことは必ずしもお金を必要とはしない。
幸福度1位のコロンビアは、誘拐や殺人の発生率が世界トップランクだ。生命の危険さえ感じられる環境でも、国民は世界でいちばん幸福を感じて生活をしているのだ。

2014年のW杯で日本はコロンビアとグループリーグで対戦し完敗したが、コロンビアは、伝統的に世界的な選手を輩出し続けているサッカー大国だ。
必ずしも経済的に豊かでなくとも、サッカーが強いというのは、それだけで国の幸福度が大きく上がると考えるのは私だけではないはずだ。
イギリスなどは、せっかくサッカーが強くても、すべてを経済的価値に反映させすぎて、低所得者がプレミアリーグを見に行けなくなる状況を招いていて、それで国の幸福度を下げているのではないかと思うのも私だけだろうか。
極端な話だが、お金を持っていることよりも、例えば、単にサッカーがうまい方が偉いと思うような軸を持っている人がいてもいい。その方が幸せというような人がいてもよい。少なくとも、週末の草サッカーをやっている時間は、そのような価値観で時間が流れている。長年一緒にサッカーやっていても、チームメイトがどのような仕事をしている人で、どのくらい稼いでいるのかなんて知らない。とにかくサッカーの試合に貢献してくれる人が偉い。そして試合に勝てば、相手がどんなに経済的に裕福な人達だろうが、その人達よりも間違いなくおいしいビールを飲める。
Jリーグは理念で、「スポーツで、もっと、幸せな国へ」と謳っている。
いよいよリオオリンピックが始まる。オリンピックはW杯よりも狭き舞台だ。どんなにお金を積んだからといっても見れない国の方が多い中、日本代表の試合が見れるという、日本人にとってこの上ない幸福な時間が始まる。日本の第2戦の相手は、コロンビアだ。

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 55:スポーツは、もっと世界の社会問題解決に貢献できる(後篇)
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 57:銀メダル選手達から学ぶ個か組織かの議論