コラム

2018.02.02(金) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 69:サッカーから学ぶデザイン思考

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第69回 サッカーから学ぶデザイン思考 ~「ドリブルデザイナー」という職業の岡部将和さん

岡部将和さんという人をご存知だろうか。ここのところ、私は暇さえあれば彼のYouTubeの動画を見ている。
彼の職業は、おそらく、世界で一人なのではないだろうか、「ドリブルデザイナー」というものだ。
世界中から視聴者が訪れるらしく、彼が“デザイン”したサッカーのドリブルのテクニックを披露した動画の総再生回数は6000万回を超えるというからすさまじい。
彼がプロのサッカー選手のドリブルを指導する動画もたくさんアップされている。例えば、現役のサッカー日本代表で最もドリブルが上手な選手と言われる原口元気選手や乾貴士選手をも指導していて、実際にドリブルで彼らを何度も抜き去って、彼らをも凌駕するテクニックを見せつける動画もあるので驚く。
ついには、現在FIFAランクで1位、今年開かれるW杯の優勝候補の一角であるベルギーから、ドリブルの“デザイン”指導に招聘されたというニュースを最近聞いた。

デザインと言えば、ここ最近、人材育成の世界でも「デザイン思考(デザインシンキング)」が流行りだ。研修のメニューとして依頼されることもとみに増えた。
しかし、この言葉があまりにも多用されすぎていて、デザイン思考という概念の意味合いの解釈が、使う人によってバラバラだということも感じる今日この頃である。
また、「これからの時代、イノベーションを生み出すにはデザイン思考が重要だ」といった声もよく耳にするが、よく聞いてみると、単に問題解決のステップを流行りのデザイン思考と呼んでいるだけのことだったりすることもある。
岡部さんのドリブル“デザイン”と接して、デザイン思考の本質の1つではないかと思うことがあったので、そこでこの機会に、自身の考えを少しまとめておきたいと考えた。

まず、デザイン思考とは何か。
簡単に言えば、「デザイン的なプロセスを活用し、クリエイティブかつ実践的なアプローチから、様々なビジネスの問題を解決する方法」と私は理解している。
デザイン的なプロセスというのは、デザイン思考を世に広めたIDEOによれば、共感(Empathize)→ 問題定義(Define)→ アイデア創出(Ideate)→ プロトタイピング(Prototyping)→ 検証(Test)の5つのプロセスで展開される、とされている。

ここで詳しくデザイン思考そのものやプロセスを論ずるつもりはないが、ドリブルデザイナー岡部さんの動画を見ていて、一つ大きなことに気づいたのは、「デザイン」と「アート」の違いだ。
実は、私は何十年もサッカーと接してきたが、ずっと、ドリブルは「アート」だと考えていた。アートとは自己表現だ。ドリブルは、感性だと思っていた。
しかし、デザインとは問題解決である。彼は、「どうやって相手を抜くか」を逆算して考えると言う。そして、抜き方を、完全に言葉と理屈で説明できると言うのだ。実際、詰将棋が好きで、詰将棋のようにドリブルをデザインし、実践するという。

Why?をBecauseで説明出来なければ、それはデザインではないということを、映画や広告を作っている友人から教わったことがある。理由を聞いたときに、「何となく感覚で」、「個人的に好きだから」、といった理由を挙げた時点で、それはアート(自己表現)であって、デザイン(問題解決)ではないということだ。言い換えると、問題と向き合い、解決の過程で考え抜いて生まれものがデザインであり、考え抜いたからこそ、そのアウトプットは説明できるはずだ。
かつて、あるアパレル会社のトップデザイナーと話したときにも、デザインにおける基本要素である、線や色や形や質感は、すべてなぜ自分がそうしたかを説明できると言っていたのを思い出した。

組織には暗黙知がたくさんある。「アート」だと言って片付けてしまいがちなことも多い。岡部さんが、ドリブルを「デザイン」できると考えたように、私達も、組織の問題でまだまだデザインできることが多いのではないかとあらためて思った。

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