コラム

2018.11.01(木) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 77:サッカー選手から学ぶ働き方改革

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第77回 サッカー選手から学ぶ働き方改革~本田圭佑選手やフラミニ選手など、サッカーと“複業”を両立させている選手が世界中で活躍し始めた~

いま、日本の社会では、“働き方改革”花盛りだ。

働き方改革によって大いに組織開発は進むし、改革を成功に導くには人材開発が求められるわけなので、私も働き方改革をテーマにした講演をさせていただく機会や、働き方改革を進めるためのコンサルティングを依頼されることが増えた。多くの企業の実態に触れると、様々な取り組みを行っていることが分かる。

ただ、政府の要請や世の中の流れから、ある意味“仕方なく”取り組んでいるという企業は少なくない。そのような企業では、あくまで制度の整備をするまでで、本気で生産性向上を実現しようとはしていないので、実態はあまり進んでいない。
特に、残業を減らす、ということだけが目的化している企業は多い。そうした企業では、現場で混乱や矛盾が起こっていることも少なくない。CMで話題になったが、「結果出せおじさんと、早く帰れおじさん、どちらの言うことを聞けばよいの?」という状況だ。
働き方改革と称して残業削減だけに取り組む企業では、「残業できなくなって、余計にフラストレーションが溜まる」という声もよく聞かれるようになった。

要するに、「何のために働き方改革を行うのか」が突き詰められていないまま取り組むことに問題がある。
働き方改革の本質は、「自分で自分の働き方を決める」ということにあるはずだ。もちろん、その方が、生産性は上がるし、大いに成果も実現できるということと繋がっていることが前提にある。究極の目指す姿は、いつでもどこでも自由に働く、ということだろう。
この本質的な目的に立ち戻って改革を進めようとしてはじめて、色々な議論がすっきり整理されていく。

ちなみに、働き方改革を行う上では、私達の働き方に根強く影響している日本社会の文化を意識して変えることを、避けては通れないと考える。特に二つの文化の存在が大きい。
一つは「忖度文化」だ。実はこれが、私達の働き方の生産性を著しく損ねている可能性があると考えている。
資料を作るときも、上司からは、何枚くらいのボリュームで作ればよいのか、明確には指示されない。一方、部下は、“こういった資料があった方が上司は喜ぶだろう”“経営会議で万が一質問が出たときに答えられるだろう”と色々と忖度して、たくさんの資料を作る。忖度して、そういった心遣いができる部下が優秀ともされてきた。
ところが面白いことに(面白いと言っては不謹慎だが)、企業の上位管理職達からは、「資料が多すぎて読めないので、3枚にまとめるスキルを身に着けさせてくれないか」といってプレゼンテーション研修を依頼されることも増えた。

そして、働き方に根強く影響を与えていると考える日本の文化のもう一つは、「専念文化」だ。(そんな言葉があるかどうか知らないが。)
専念文化とは、一つのことに専念していないと、結果なんか出せないという考え方のことだ。
昔から、学校での部活は基本的には掛け持ちなど許されなかった。サッカー部に所属していながら、バスケも野球もやるなど発想すらなかった。仮にそんなことしている人がいたとしても、遊んでいるとしか見られなかったろう。海外のトップアスリート達が、子供のころは様々なスポーツをやっていたと聞くにつけ、本当に驚いたものだ。他のスポーツをやっていたことが、むしろ大いにプラスになったと言うのだ。
記憶が新しいところでは、野球の大谷選手が、“二刀流”で勝負すると言ったときにも、「一流選手になりたいなら、ピッチャーかバッターか、1つのことに専念すべきだ。」という批判が大きかった。
私などは、何より本人が「やりたい」と言っているのだから、それを優先するのが成果を出す最も有効な方法ではないか、と考えていた。百歩譲って、本人が一流選手になるかどうかではなく、球団が組織として最大の成果(シーズンの勝利数)をあげるためにということが論点で、そのためにはどちらかに専念させた方がいい、という議論だったとしても、本人のモチベーションよりも組織の論理を優先して、それで本人のパフォーマンスが最大限発揮されなくなったら元も子もないのにな、と思っていた。

とにかく、働き方改革の本質は、「自分で自分の働き方を決める」ことだと考えている。
しかし、「専念文化」がそれを阻む要因となっていると思う。
好きな場所で好きな時間に働くよりも、気が散るし9時5時は会社に来て専念した方がよい。副業を色々とやるなんてとんでもない、この仕事だけに専念した方がよい。そういった考え方がベースに横たわっている。

サッカー選手にしても、これまでは、他のスポーツどころか、サッカー以外に他のビジネスには手を出さず、政治的な発言などはせず、プレイに専念した方がよい、とされてきたようだ。
プロサッカー選手である以上、結果が求められる世界であることは間違いない。だからといって本業に専念すべきだ、他の仕事をしていることが結果を出せない要因だという批判には、今、やはり違和感を感じざるを得ない。
考えてみると、実は現役だからこそ一流選手だからこそ「ネームバリューを活かして」できることがたくさんあり、実際に、何かできないかと考えてはじめている選手も多いようだ。

世界のサッカー界のニュースを見ていて、最近、一流選手が現役でありながら“複業”をする時代が来ていることを予感させる選手のことを知った。元フランス代表選手で、現役バリバリの、フラミニ選手だ。
彼のツイッターの肩書を見ると、プロサッカー選手、環境保護主義者、GFバイオケミカルズ共同創業者、世界経済フォーラム・ヤング・グローバル・リーダー、と4つが並んでいる。
とりわけ、彼がACミランに所属していた2008年に立ち上げたGFバイオケミカルズというのがすごい。環境問題への関心から、研究者や技術者との接点を持ち続け、起業したという。レブリン酸という化学物質の大量生産を先駆けて成功し、石油代替品として期待される物質だという。一時、同社の市場価値は300億ユーロ(4兆円)にもなったという。
日本のサッカー界では、本田圭佑選手が、先頭に立っている。複数の事業を運営しながら、この度ファンドも立ち上げながら、カンボジアの代表監督まで引き受けた。いくつもの“複業”を楽しみながら、現役のサッカー選手としてまだまだ活躍している。彼は、「自分で自分の働き方を決める」働き方改革の最前線で、そのモデルを示してくれている。

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