コラム

2020.05.07(木) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 91:サッカー選手のメンタルの鍛え方から学ぶコロナ禍への心得

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】
第91回:サッカー選手のメンタルの鍛え方から学ぶコロナ禍への心得~「過去未来の暴走」「意味付け」「結果エントリー」を避ける~

いまだにいくつかのチームに所属し、現役で週末のサッカーを続けているが、そのうちの一つに鎌倉インターナショナルというチームがある。もちろん新型コロナの感染拡大防止のため、どのチームも活動停止で2か月以上一切サッカーができずにくすぶっているが、先日、鎌倉インターナショナルではキックオフ・ミーティングが開かれた。

キックオフ・ミーティングは、Zoomによるオンライン会議で行われた。監督やGMの姿と共に、チームのメンタルトレーナーに就任してくださったということで、辻秀一さんの姿が画面の向こうにあったので、大変驚いたし嬉しかった。

この方は、著名なスポーツドクターで、「スラムダンク勝利学」というベストセラー本の著者でもある。今はJリーグのV・ファーレン長崎のメンタルアドバイザーもされているという。
ご本人がたまたま鎌倉出身ということもあり、鎌倉インターナショナルのビジョンに賛同して、この度チームに加わってくださったのだと言う

オンライン会議だったので直接お会いすることもお話することもできなかったことは残念だったが、この機会に、辻秀一さんの著作や執筆物をいくつか手にとってみた。先が見えない不安や、大きなストレスがかかる状況で、プロ選手達はどのようにメンタルを鍛えているのか。コロナ禍でストレス過多な日常への心得として、私達が学ぶべきヒントにあふれているように感じた。

スポーツ選手のメンタルの重要性が叫ばれて久しい。昨今のスポーツの現場で、結果をつかみ取るアスリートに共通しているのはメンタルの強さだ、と言っても過言ではないだろう。一流のアスリートの多くは、心が鍛えられている。

体を鍛えることがフィジカルトレーニングならば、メンタルトレーニングは、心を強くするために脳を鍛えることだ。脳の習慣づけを行い、心の状態を自分の力でマネジメントする力やスキルを養うことで、アスリート達は能力を最大限に発揮できるようになっていく。しかし、辻さんによれば、メンタル面の強化はまだまだ個に委ねられているという。Jリーグのどのチームもフィジカル・コーチは置いていても、メンタル・コーチまで置いているチームは確かにほとんど聞かない。

メンタルトレーニングとは、プラス思考(ポジティブ・シンキング)のことかと勘違いされることも多いというが、両者は全く違うもののようだ。プラス思考は、「嫌なことがあってもプラスに考えよう」「ピンチをチャンスととらえよう」といった思考のことだ。プラス思考は、ときに自分に嘘をつくことになったり、かえってストレスになったりするケースがあるという。

一方、メンタルトレーニングは、フロー、つまり、「心が機嫌のいい状態」を保つようにマネジメントすることだ。目の前のやるべきことに集中しそれを機嫌よくやる、というのが、一番パフォーマンスを発揮できるよい方法だという。

サッカーは、1試合に1点か2点しか入らないので、失敗によって勝負が決する「失敗のスポーツ」と言える。そして、ミスのスポーツでありながら、例えばバスケットのように、ミスしても簡単には取り戻せないので、ミスの緊張感は半端ない。そう考えてみると、サッカーはメンタルのスポーツだと言っても言い過ぎではないだろう。 辻さんによれば、サッカー選手達のメンタルを苦しめているのは、結局、「過去未来の暴走」「意味付け」「結果エントリー」の3つだという。

過去未来の暴走:

脳は放っておくと、「今ここ自分」から離れてしまう。 人間には過去と未来に意識が働く「タイムワンダリング」という仕組みがあるそうだ。“あのときうまくいかなかった”ということが心を支配し、“また失敗したらどうしよう”という気持ちで、目の前のやるべきことに集中できなくなってしまう。変えられない過去やどうなるか分からない未来を連想して、緊張・焦り・不安に苛まれ暴走してしまうのだ。

意味付け:

練習ではできていること、普段の試合ではやれていることが、「オリンピック」のような大舞台となるととたんにできなくなってしまうことがある。1試合1試合は同じ目の前の試合に過ぎないのに、「大事な一戦」と自分自身が意味付けをしてしまい、プレッシャーを自ら作ってしまうのだ。すべてミスや失敗は1つのプレイでしかないのに、「痛恨の」ミス、「もったいない」プレイと、意味付けをしてしまっていることに気づくことがコントロールの第一歩だという。

結果エントリー:

サッカーのPK(ペナルティキック)は、練習であればプロなら大体9割方の確率で決めることができるはずだ。しかし、いざ本番になると、「絶対に決めなければならない」という結果に捉われてしまい、一流プレイヤーでも外してしまうシーンを見ることが少なくない。結果からスタートする「結果エントリー」ではなく、心からスタートする「心エントリー」を学ぶことで、本来のパフォーマンスを発揮しやすくなり、結果を出しやすくなるという。

新型コロナウイルスによって、今、私達の生命は脅かされ、そして、生活や仕事に大きな制約が加えられている。ほとんどの人がストレスフルな日常を強いられている。

私自身は、自分の心を鍛える術を身に着けるチャンスを得ていると思って、トップアスリートの心のトレーニングを参考にして、乗り越えていきたいと考えている。

そして、サッカーのプロチームが今後メンタルトレーナーを充実させる必要があるように、多くの企業組織も、コロナ禍をきっかけとして、来たるリモートワーク時代の重要なテーマとして社員のマインドの強化の取り組みに力を入れるはずだ。メンタルと言えば、躁鬱等のケアと考えがちだが、そうではなく、「社員一人ひとりが持つ能力を最大限に発揮することだ」と気づいた企業が、まずは動き始めるだろう。

参考資料:『サッカー批評』2018年11月号、『スラムダンク勝利学』(辻秀一)、『ゾーンに入る技術 「驚異の集中力」が最高の能力を引き出す!』(辻秀一)

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 90:スポーツを通じたアフリカへの国際貢献(2)
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 92:サッカー監督業に学ぶ新型コロナへの心得