コラム

2020.06.02(火) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 92:サッカー監督業に学ぶ新型コロナへの心得

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】
第92回:サッカー監督業に学ぶ新型コロナへの心得~感情をコントロールしてプレッシャーやストレスを乗り越える~

先日、日経新聞のコラムに掲載された、「監督業に学ぶ新型コロナへの心得」という記事を読んだ。オリンピック日本代表監督などを歴任し、現在はサッカー解説者の山本昌邦氏によるものだ。

新型コロナという「見えない敵」との戦いは「いつまで」という先もはっきりと見通せず、神経戦の様相を呈している。巣ごもりのような生活を長く強いられるほど、身体とともに、それを支えるメンタルの力も問われるようになるのだろう。

常とは違う行動を強いられると人間はイライラが募るものだ。

ストレスフルな日常が強いられているが、プロサッカーの監督もそうだ。監督の座にある間、心休まる時間はほとんどない。スペインでは、そんな厳しい指導者の道を志す者に対して、『7つのS』の必要性が説かれるという。

昨今の情勢を鑑みれば、今を生きる我々にも通じるかと思い、簡単に紹介してみたい。

監督の仕事で最も大事なことは、いかに感情をコントロールするかということ。それができないと良い仕事はできない。

7つの「S」もそこに足場があり、

(1)Salud(健康)

(2)Serenidad(落ち着き、静けさ)

(3)Sinceridad(誠実)

(4)Sencillez(簡潔、シンプルさ)

(5)Simpatia(同情、思いやり)

(6)Servicio(奉仕)

(7)Sinergia(相乗効果)

と並んでいる。

(日本経済新聞 朝刊 2020年4月20日)

世界中で最もタフな仕事の一つと言われるプロサッカーの監督。何十万人何百万人ものファンの人たちから勝ちを要求され、成績がちょっと悪くなれば、グランドでは暴徒のようなサポーター達に囲まれ身を危険に晒し、見知らぬ大勢の人達からも罵詈雑言・誹謗中傷を理不尽に浴びせられ、チームから突然解雇されることなど日常茶飯事。世界中の監督は、日々このようなプレッシャーと戦っているわけだ。

ストレスフルな日常で、自身の感情をきちんとコントロールしようという確かな気持ちを常に持ち続けていないと、プレッシャーで心からやられてしまうものだろうし、ストレスは決してマネジメントできないだろうということを、この7つのキーワードを見て強く感じた。

プロサッカーチームを率いる監督のプレッシャーは計り知れないものと思うし、そしてそれをうまくコントロールできる強者だけが、生き残っているのだろうと思う。しかし、そのプレッシャーを乗り超える最も効果的な方法は、おそらく…自分自身が置かれた状況を客観視すること、そして、楽しむことなんだろう。

名監督の一人、モウリーニョ(現トットナム監督)がかつて会見で話した、彼自身の「プレッシャーの定義」を思い出した。この会見を見て、私は目から鱗が落ちる思いだった。

彼は、チームの敗戦後に記者から「プレッシャーを感じていると思うが」と問われ、「何のプレッシャーについて言っているのだ?」と問い返していた。そして、「チェルシー(当時監督をしていたイングランド・プレミアリーグのチーム)が2試合連続で負けたことに対してです」と言われて返した言葉は、次の通りだ。

「プレッシャーというものは、世界中にいる何百万人もの『明日の子供たちの食糧をどのようにして調達しよう』というような悩みを抱えた貧困に苦しむ人々に必要な言葉だ。サッカーにおいてそのような言葉は必要ない。」

また、かつてアルゼンチン代表の闘将で、今は名将の一人となってスペイン・リーガエスパニョーラでアトレティコ・マドリ―ドを監督として長年率いて戦っているシメオネは、次のような言葉で、成功しなければ味わえない『極上の批判やプレッシャー』を楽しもうと言っている。

「これまでに収めてきた成功によって、この上ない結果を収めない限りは批判が生じるようになった。成長を続けたいならば、そうしたことと共存しなければならない。」

そして、「私は自分が匿名であるより、何でもない状況にいるよりも、批判を浴びることを選びたい」とまで言っている。

つまり、極上の批判を浴びる、プレッシャーを受けるということは、最高の舞台にいるという証拠であり、そこから得られるものは計り知れず、この幸せは大いに味わわないといけないという気持ちで監督をしているのだ。

誰もがなれるわけではないプロサッカーの監督という仕事でチームを指揮でき、チームに所属する素晴らしい選手達と共に戦う最高の舞台が用意されており、何より、サッカーができるという幸せの最中にある。どんなに過酷な状況に置かれていたとしても、それを一番にかみしめるところから、自分自身をコントロールする術を身に着けているのだ。

このコロナ禍を経験して、彼らは一層、平和で安心安全な世の中に勝るものはないこと、そして、サッカーができることへの喜びの気持ちを新たにしているだろう。どんなサッカーを見せてくれるか、楽しみで仕方ない。

先日、今月末からのJリーグの再開が決まったが、サッカーを見る日常が戻ってくるのが本当に待ち遠しい。

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