コラム

2024.07.31(水) コラム

ATD-ICE2024 PFCラーニング・チーム オンライン報告会レポート ~Future Readiness / Leadership & Management Development~

国際的な組織ATD(the Association for Talent Development)の主催する組織開発・人材開発のプロフェッショナル向けの世界最大規模の国際イベントATD-ICE(ATD International Conference & EXPO)。2024年は現地で約9,000名(77か国)、バーチャルで約500名が参加しました。うち約1,250名が米国外からの参加で、日本からも159名が参加しました。3つの基調講演、13トラック400以上のセッションがあり、組織開発・人材開発のトレンドを知るうえでも貴重なイベントとなっています。

PFCでは毎年ラーニング・チームを組んでATD-ICEに参加し、現在の人材開発分野の潮流を学ぶ活動を行ってきました。この記事では、7月19日にオンラインで開催された報告会の内容を中心に、ATD-ICE2024の様子をお伝えします。

今年の傾向

AI時代におけるリーダーシップ開発、学習のやり方、今後に求められるスキルの変化、L&Dの在り方の変化に関するセッションが数多く見受けられました。その点も含め今年のトレンドとテーマを考察すると下記の内容が挙げられます。

  1. 生成AIの活用方法
  2. AI時代におけるリーダーシップ開発
  3. AIを活用した人材育成、企業学習トレンド
  4. 職場内のコミュニケーションの在り方、人とのつながり
  5. DEI(Diversity、Equity、Inclusion)への取り組み
  6. 変化に対応する組織風土改革
  7. 脳科学を活用した記憶と学習デザイン
  8. コーチング文化、特にフィードバック、傾聴、質問力
  9. キャリアの流動性
  10. EQ及び心理的安全性

人材開発・組織開発の現状と未来を知るうえで毎回注目をあつめるのが3つの基調講演ですが、これはすでに様々なサイトで紹介されているので今回はご紹介を省き、400以上の個別セッションの中から、目に付いたものを簡単にご紹介していきたいと思います。

13のラーニングトラックからなる個別セッション

ATD-ICEでは、「ラーニングトラック」として、各セッションがカテゴリー別に分類されます。今年は昨年に続き13のラーニングトラックが設定されていました。

今回は「Future Readiness」「Leadership & Management Development」のラーニングトラックからいくつかのセッションをご紹介します。

「Exploring the Opportunities of the New Learning Technology Landscape」
新しいラーニング·テクノロジーの可能性を探る

講演者 David Kelly The Learning Guild:CEO
LXP(Learning Experience Platform)やマイクロラーニング、パーソナライズラーニング、VR/ARといった最新のトレンドが取り上げられ、これらの技術を導入する際の課題やベストプラクティスも紹介されました。「LXPでは多くの機能が提供されるようになっている。しかし、組織はこれらの新しいプラットフォームによって、現行業務を「再現」させるだけにとどめず、学習戦略を強化するためにどのように活用するかを考えるべき」「VRはリスクの高いタスクを練習するのに有効で、ARを使えばリアルタイムのパフォーマンスサポートが可能となる。ただし、これらは新たな選択肢が増えただけで、集合研修やE-Learningが淘汰されるわけではない」といった講演者のコメントも印象に残りました。

Innovate or Die : Harnessing Generative AI for Maximum Impact
革新しなければ先は無い:生成AIを最大限に使いこなす

講演者 Julie McGovern(Novartis, Associate Director of Curriculum Development & Learning)・Courtney Nall(Novartis, Global Learning Partner)

このセッションでは、ADDIEモデルに沿って、生成AIがどこでどのように使えるか?が検証されました。

ADDIEとは以下の5つの頭文字をとったもの。
・Analisys(分析・要件整理)
・Design(研修設計)
・Development(研修開発)
・Implement(実施)
・Evaluate(評価)

それぞれの段階について、どのようにAIを活用したらいいか、実際に試したツールと共に提示されました。たとえば、研修コンテンツの流れ・開発方法・評価方法等の概要設計を行う「Design」の段階では、学習アプローチのネタ出し・コース概要の設計・評価方法の推奨といった部分にAIの適用余地があり、ID Assist, ChatGPT, Miro Assistといったツールを試用した、といったことまで紹介されました。実際のAIツールを使った検証を、ベンダーではなくユーザー企業が行った点で価値が高いレポートだったと思います。

Trust and inspire 
信頼とインスピレーションを与える!

講演者 Steven M. R. Covey
ここからはLeadership & Management Developmentのトラック。まずは、「SPPED OF TRUST」の著者による「TRUST(信頼)」に関する考察をご紹介しましょう。セッションの中で触れられた「信頼とインスピレーションを与えるリーダーになるための5つの一般的な障害」をご覧ください。

障害1: このままでは機能しない。
障害2: 恐怖、または「でももし~」
 ・でももし私がコントロールを失ったら?
 ・でももし機能しなかったら?など。
障害3: どうやって解放すればいいのかわからない。
障害4: 私は一番賢い。
障害5: これが私なんだ。

20年前、「SPEED OF TRUST」をATD(当時ASTD)で発表したCovey氏が「信頼」に関する考察を発展させた内容で、①モデルになる・②信頼する・③Inspireする という3ステップがわかりやすく、実践しやすいと感じました。

Feedback-Fueled Leadership: Why Seeking and Receiving Is Better Than Giving
フィードバックは、与えるよりも求め、受け取ろう

講演者:Jack Zenger(CEO and Co-Founder Zenger Folkman
このセッションでは、リーダーが積極的にフィードバックを求め、受け容れることがどのような効果を生み出すかが、リサーチ結果をベースに紹介されました。フィードバックは上司が部下に対して行うものというイメージが強いですが、上司も部下からフィードバックをもらうことで自身のリーダーシップも開発され、また組織にフィードバックカルチャーを創り出せるといったお話が印象的でした。フィードバックを求める上司には「部下育成により多くの時間を使う」「認める、褒める機会を探している」「他者の自尊心を高める」「思慮深く、オープンエンドな質問をする」といった特徴があるそうです。

How Executives Transform Their Organizations Through Deep Personal Work
経営者が個人的な取り組みで組織をいかに変革するか

講演者:Evert Pruis (co-founder Forzes)
業界で成功を収めた19名のリーダーのインタビューを分析した結果、全員が5段階のリーダーシップ開発のプロセスを経ていることが発見されたそうです。そのプロセスとは、

1.振り返りと内省
2.手放す
3.状況を変える
4.共感と思いやりを持って導く
5.変革を起こす

これらによって組織の心理的な安全性が高まり、組織内に活発なアイディアが生成されるようになる。結果組織の変革が急速に進められるようになるということでした。

It's Always the Leader!
いかなる場合もリーダーがカギ!

講演者:Ken Blanchard(Chief Spiritual Officer, Blanchard)・Scott Blanchard(CEO, Blanchard)
ケン·ブランチャード氏が数十年にわたって説いてきた、リーダーにとって今日でも有効な6つの不変の真理についてのお話でした。

1. Leadership is a partnership.
効果的なリーダーシップとは(メンバーがリーダーのために働くことではなく)リーダーがメンバーと共に働くこと。
2. Catch people doing things right.
メンバーを成長させるには正しいことをしている瞬間を捕まえ褒めること。
3. Love is the answer. What is the question?
愛情をもって接する。メンバーを尊重し、一人ひとりが大切な存在だと感じられるようにしよう。
4. Great leaders have their people‘s back.
優れたリーダーはメンバーの後ろを守る、すなわちメンバーを信頼し、支える。安心を得たメンバーは仕事にコミットし、業績が向上する。
5. Exemplary leaders adapt, connect, and learn from their people.
優れたリーダーは適用力があり、部下とつながりを持ち、部下から学ぶ。
6. An extraordinary leader‘s journey never ends
卓越したリーダーの旅に終わりはない。リーダーシップの修得は一生続く「旅」であり、継続的なプロセスである。

ATD-ICEの個別セッションレポート、いかがでしたでしょうか?レポートはこのあと、Learning Technologiesのトラックにすすみます。次回のレポートをお楽しみに!


来年度のATD-ICE2025ももう始動しています。場所はWashington D.C.で、2025年5月18~21日に開催されます。PFCラーニング・チーム募集は2024年9月以降にご案内の予定です。どうぞお楽しみに!