Web版 組織開発ハンドブック

組織開発

若手の自律を支援する「セルフリーダーシップ研修」の可能性とは?

受け身の若者たちをどう育てるか

「最近の若手は、自分で考えて動こうとしない」「キャリアの方向性に迷っているようだ」——そんな声が、さまざまな業界の人事担当者から聞かれるようになりました。ある製造業の人事マネージャーは、こう話します。「30代前半の社員が『やるべきことは言ってくれたらやります』と言ってきたとき、本人に悪気はなかったものの、自らの頭で考えて行動する意識が育っていないのだと痛感しました」。

このような“受け身”の姿勢は、Z世代の価値観や働き方の変化にも起因しており、一概に否定すべきものではありません。しかし、個人としても組織としても、変化のスピードが速い今の時代に求められるのは、まさに「セルフリーダーシップ」——すなわち、自らをマネジメントし、自ら考え、行動する力なのです。

特に30歳前後の若手社員は、主任昇格や異動、キャリアの再設計といった節目の時期を迎えます。このタイミングでセルフリーダーシップを育むことは、本人の主体的なキャリア形成はもちろん、組織へのエンゲージメント強化や定着率の向上にも直結します。

近年では、「セルフリーダーシップ研修」を導入する企業も増加しています。単なるスキルアップではなく、個人のキャリア自律や自己認識、行動変容を促す設計が重視されており、研修後には「目標設定が明確になった」「上司と対話する習慣がついた」「自分の特性に合ったキャリアビジョンが描けた」といった成果が報告されています。

さらに、こうしたスキルの育成は個人にとどまらず、組織全体の強化にもつながります。セルフリーダーシップは、一人ひとりが自律的に動ける土台を築くだけでなく、学び続ける文化を醸成し、職場全体に「考え、挑戦し、改善する」空気を生み出します。このことは、リスキリングやイノベーションの推進にも不可欠な視点といえるでしょう。

なぜ今、セルフリーダーシップが必要なのか?背景と課題

変化の激しい時代、企業の経営環境も組織構造も複雑化しています。そんな中で、上からの指示を待つだけではスピード感ある対応が難しくなっています。一方、若手社員の間では「自分らしく働きたい」「意味のある仕事がしたい」といったニーズが高まり、従来のように“会社に合わせる”という価値観とは大きくズレが生じています。

こうしたミスマッチは、モチベーション低下や早期離職、キャリア迷子といった問題を引き起こします。こうした状況において、セルフリーダーシップの育成は、「会社にフィットさせる」教育から、「個人の自律を支援する」教育への転換を意味します。

人事部門にとっても、従来型の研修ではカバーしきれなかった“キャリアの主語を自分に取り戻す”ための支援が、いま強く求められているのです。

セルフリーダーシップとは?定義と必要な対象者

セルフリーダーシップとは、自らの価値観・強み・目的に基づいて、自分を導く力です。管理職のためのリーダーシップとは異なり、あくまで“誰もが持つべき”自律の力であり、役職にかかわらずすべての社員に必要とされるものです。

特に求められる対象は以下のような層です:
・キャリアの節目にある30歳前後の中堅社員
・初めてのリーダー経験をする若手管理職候補
・自らのキャリアに迷いを感じている入社3〜5年目の社員

また、リスキリングや越境学習が注目される今、シニア層にとっても「これから何を軸に働いていくのか」を見つめ直す機会として、セルフリーダーシップの考え方は有効です。自分の特性を理解し、新しい役割への適応や再スタートを切る際の基盤として、あらゆる世代にとって価値のあるアプローチと言えるでしょう。

育成の方法:どう設計すればよいか?

セルフリーダーシップを育てる際には、「自己理解」「対話」「経験」の3つの柱を意識した研修設計が求められます。

・自己理解:アセスメントやリフレクションを通して、自分の価値観・強み・行動傾向を知る
・対話:上司や同僚との1on1、フィードバックを通じて“他者から見た自分”を学ぶ
・経験:プロジェクト型学習や業務経験の中で、自らの意思で行動を起こす体験を得る

特に重要なのは、上司との関係性や、研修外の実務とのつながりを意識した設計です。現場と研修が乖離してしまうと、研修の学びは定着しにくくなります。

また、単発でのワークショップにとどまらず、数カ月にわたるフォローや、上司との対話機会の設計、1on1の質の向上などと連動させていくことが成功の鍵となります。

これにより、学びを一過性で終わらせるのではなく、行動変容を促進し、定着させる仕組みが構築されます。

さらに、セルフリーダーシップの育成は、個人の力を高めるだけではなく、組織の持続的な成長にも寄与します。自ら考え、動ける社員が増えることで、現場の意思決定力や課題対応力が高まり、ひいては組織全体のレジリエンスが強化されるのです。また、リスキリングと組み合わせることで、変化に強い人材育成の軸としても活用が広がっています。

セルフリーダーシップを構成する6つの要素

セルフリーダーシップを効果的に育成するには、以下の6つの要素をバランスよく押さえていくことが重要です。

1. 自己認識力

自分の価値観や特性、強み・弱みを正しく理解する力です。これにより、自分の判断軸が明確になり、他人と比較してぶれない意思決定が可能になります。アセスメントやフィードバックを通じて、自分を客観視する力を養うことが第一歩です。

2. 意図的行動力

ただ行動するのではなく、「なぜそれをするのか」「どこに向かっているのか」を意識した行動を取る力です。目標設定や行動計画といったスキルもここに含まれ、自律性を支える重要な要素です。

3. 対人影響力

チームの中で信頼を築き、建設的に関わり合える力です。自律的な人ほど孤立しやすいという落とし穴もあるため、協働性や対話力はセルフリーダーシップの安定的な発揮に欠かせません。

4. フィードバック活用力

他者からの意見や評価を前向きに受け止め、自分の成長に活かす力です。ときには耳の痛い指摘もありますが、それをバネにできる人は学習力が高く、成長スピードも加速します。

5. 内発的動機づけ

外から与えられる報酬ではなく、自らの内側にある価値観や目標に突き動かされて行動する力です。これにより、困難や不確実な状況にあっても、主体性を失わずに取り組み続けることが可能になります。

6. 意志の持続力

行動を「始める」だけでなく、「続ける」力。小さな成功体験を積み重ね、習慣化していく力がここにあたります。セルフリーダーシップは一過性ではなく、継続するプロセスであり、この持続力が成果につながる鍵です。

自律した人材が組織の未来をつくる

セルフリーダーシップは、単なる個人の成長を促すためのスキルにとどまりません。それは、変化の激しい時代を生き抜くための“土台”であり、組織にとってはイノベーションと持続的成長を生み出す“源泉”でもあります。

企業がこれからの人材育成を考えるうえで、「誰かに引っ張られるのを待つ」のではなく、「自ら未来を切り拓く人」を育てることが欠かせません。セルフリーダーシップを備えた人材が増えることで、組織には前向きなエネルギーが満ち、自律と協働が両立する新しい組織文化が根づいていくはずです。

今こそ、若手社員の“受け身”を責めるのではなく、“自ら動きたくなる”力を引き出す支援を始めてみませんか?