コラム

2022.09.05(月) コラム

「アンコンシャス・バイアス研修モニター実施からの示唆~40名の人事・人材開発のエキスパートが参加」

PFCが今年リリースしたアンコンシャス・バイアス研修は、無意識バイアス発言の根絶を狙うのではなく、職場にあるバイアス事例について話し合い、多様性から学ぶ職場風土づくりの実践を支援するオンライン・コンテンツです。アンコンシャス・バイアスは無意識であるがゆえに自分では気づけないこと。しかも誰も傷つけないように「アンコンシャス・バイアス禁句集」を作るとしたらどれほど長いリストにしてもキリがない。このような問題意識からPFCのアンコンシャス・バイアス研修は、
Part 1:オンライン個人学習(アンコンシャス・バイアスについて適切な知識を得て、職場のアンコンシャス・バイアス事例をフィードバックする)
Part 2:職場セッション(フィードバックレポートを基に管理職がファシリテーターになり職場で話し合いを持つ)
という2部構成となっています。

今回は、このアンコンシャス・バイアス研修のモニター実施からのインサイトをご紹介します。

7社の人事・人材開発部門の皆さんが参加

 参加いただいたのは7社の人事・人材開発部門の皆さん。2022年5月末に実施した弊社ウェビナー「業績向上のためのダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」で、プログラムの検証にご協力いただくモニター参加企業を募集した結果です。この度、モニターの皆様によるプログラムの検証が完了し、有益な改善を加えることができたと共に、アンコンシャス・バイアスを起点とする組織開発に関して非常に有益な知見を得ることができました。モニターにご協力いただいた皆様に、この場を借りて厚く御礼を申し上げます。
 モニター参加企業の内訳は次のとおりです。

  • 参加社数:7社(人事・人材開発部門)
  • 参加者総数(人数):40名、1社(1部門)あたり5~8名
  • 参加企業の業種:業種は製造、金融、小売、運輸、サービス
  • 日系6社、外資1社

アンコンシャスバイアス研修:プログラムへの総評

 たくさんのポジティブなフィードバックをいただき、アンコンシャスバイアス研修はDE&I推進支援の有益なツールだと、手ごたえを得ることができました。弊社プログラムの特徴を捉えていただいた代表的なコメントをご紹介します。

  • プログラムの構成がよい。論理的に理解した上で、アンケートを書き、気づきを得る構成なので、属性に対する決めつけを助長することがない。理知的な理解を望む参加者にも適している。モニターは自職場メンバーのみフィードバックレポートであったが、部や事業部単位でのフィードバックレポートを使うことで、自組織で起きていることについて意識を高めることができる。
  • 対話持つことの重要性、また社員教育における対話の有益さを実感した。e-learningだけだと自分だけの気づきで終わるが、対話があることで気づきが増幅する。
  • アンコンシャス・バイアスを知ること、職場に巣くう事例をどう変えていくかを考えることで、職場風土改善に繋がると感じる。事前学習の内容は人事の人間にとっては知っていることだったが、紐づけてディスカッションすることで会社の現状を振り返ったり、社員に意識付けをしたりするいい機会になると思いました。

 他方、アンコンシャスバイアス研修の難しさは、「管理職の力量が問われる」ということに収れんされました。本プログラムは、アンコンシャス・バイアスについて職場で話し合うきっかけづくりとして、管理職の皆さんに職場で1時間~90分のセッションを実施していただきます。今回のモニター実施で、その際管理職に配布される「ファシリテーションガイド」に改良を加え、管理職の皆さんにより具体的な対処策をご提供しました。
 また、必要に応じてオプションで管理職向け心構えのためのオリエンテーションやインクルーシブ・リーダーシップ研修を実施することで、管理職強化も同時に図ることの有用性を実感しました。

様々なアンコンシャスバイアス事例が集まった

人事・人材開発の専門家から寄せられるアンコンシャス・バイアス事例フィードバックはどのようなものか?40名・総コメント件数87件の内訳をご紹介しましょう。

 アンコンシャスバイアスに関する件数で最も多かったのは、やはり「ジェンダー」に関するバイアス事例です。他カテゴリーの「職種」や「勤務形態・雇用形態」の中にも連動した事例が散見され、人事の皆様が認識する企業におけるジェンダー格差問題が反映されています。経営幹部や管理職層の早期輩出とともに、時短勤務者、職種や役割への決めつけといった事例が寄せられました。

「年齢」カテゴリーは、若手とシニアに対するバイアス事例が大半を占めました。いくつかご紹介しましょう。

  • 若手はキャリア開発への意識が高く、年齢が高い人ほど意識が低いという思い込み。
  • よく耳にするのは、「若手は基幹職になりたくない」という意見。データを取ってみると、若手の方が希望者が少ないかもしれないが、そのような社内データは正式には存在せず、一部の意見に基づいて感覚的に言っていると思われる。
  • 若年次社員は、仕事を覚えることで精一杯の段階におり、事業活動への有効な提言力はない。
  • 能力開発において、若手優先、年齢が高い人は変わらない、という発言が頻繁にある。
  • 若い女性の上司にシニア男性の部下を配置させることに抵抗を感じ避けてしまう。
  • 年配の方は、就業意欲が少なくなってきているという偏見。

 いずれの事例も、職場で影響力の大きい人たちが無意識に発言したり行動している場合、組織風土に多大な影響を及ぼします。年齢では、「昭和の価値観は基本的に通用しないので改めていく必要がある(というバイアスがある)」といった、ミドルに対するバイアス事例も寄せられました。

 障がい者に対するバイアスは2件、性的マイノリティに関するコメントは0件でした。

参加者の目の色が変わり風土改革が自分ごと化される職場セッション

 ご紹介したようなアンコンシャスバイアス事例を基に、Part 2の職場セッションで話し合っていただきます。この話し合いは、何か結論を出すことではなく、学びあいに主眼があります。自社のDE&I方針や戦略に照らしてクリティカルなバイアス事例を1つ2つ選んでいただき、そのようなバイアス発言が出る背景はどのようなものか(バイアス発言側の立場に立って考察する)、そのようなバイアス発言はメンバーの認識や行動にどのような影響を及ぼすか、意見交換を行います。

 モニター参加企業の職場セッションは、自社のDE&I推進を担う人事・人材開発の皆様でしたから、ほぼすべてのセッションがたいへん有意義で、熱を帯び、60分や90分の話し合いでは終わらず、2回目を実施したというご報告もいただきました。

「子育て中の男性社員の顔は浮かばない」

 アンコンシャスバイアス研修の職場セッションでの気づきの事例をひとつだけご紹介します。モニター参加企業の中で唯一の外資系企業では、経営幹部や管理職層に女性が多く、多くの日系企業から見るとDE&Iが進んでいるうらやましい会社です。職場セッションでアンコンシャス・バイアス事例を深堀りしている折、HRトップが次のような気づきを発言されました。

「自身を顧みると、子育て中の女性社員の顔は浮かぶが、子育て中の男性社員の顔は浮かばない。誰が子育て中かわからないし、気にも留めてこなかったということだ。つまり、男性は育児をしないという無意識バイアスが自分の中にあった。(中略)わが社は、女性管理職が多く、育児中の女性社員の職務が本人の意に反して軽減されるような風潮はない(いわゆる「過剰な優しさ」)。同時に、周囲が子育て中の女性を配慮し助け合う、すばらしい風土がある。ジェンダー平等とは、こういう平等の下に子育て中の女性への配慮をなくすことではない。今後は子育て中の男性社員にも同様に、子育ての時間がとれているか?業務負荷はどうかという配慮をしていきたい。」

 PFCのアンコンシャスバイアス研修がきっかけになり、このようなすばらしい気づきと学びの場を持っていただけたことを本当にうれしく、モニターにご協力いただいた皆様に、改めてお礼を申し上げます。

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山田 奈緒子(やまだ なおこ)
ピープルフォーカス・コンサルティング
取締役