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2021.06.02(水) お知らせ

次世代経営人材(サクセサー)は育成できる(PFC代表取締役 松村卓朗)

 「次世代経営人材が育っていない」という相談をいただくことが増えている。様々な調査においても「次世代経営人材の育成」は人材に関する経営課題のトップにランキングされることが多い。

 実際、育成は難しい。ミドルマネジメントの能力開発や若手のモチベーション・マネジメント、女性活躍推進等の課題は社内研修等で対応できても、「次世代経営人材の育成」だけは外部のプログラムや企画を活用するという人事・人材開発担当者も多い。次世代経営人材育成は急にはできない。リーダーシップ・パイプライン全体の見直しや整備も必要だろう。

 では「次世代経営人材は育成できないのか」といえばそんなことはない。本稿では、これまでPFCがご支援してきた中で、効果的だったソリューションをご紹介しようと思う。具体的な方法論を共有したい。

「管理職」と「経営者」は何が違うのか?

求められる資質とは何かについて確認しておこう。

「部長までの管理職と経営者とでは本質的に何が異なるのか?」という質問をよく受ける。経営人材を育成するためには、この違いを明確にしておくことがカギとなるので、 我々もことあるごとに議論してきた。

「部門ではなく全社最適の視点で判断をする」「後ろ盾がない中で決断を下す」「見知った間柄ではない人達とコミュニケーションをとって動かす」など、違いは色々と挙げられる。

 しかし、ここで挙げた要素は部長や課長には全く求められないかというとそんなことはない。多少の差はあれども、何か根本的に異なるというわけではない。

経営の仕事は「と」

 本質的な違いは、「と」にあるのではないか、というのが我々が到達した考えだ。部長までは、一つの方向に向かって成果を出すということが求められる。そもそもの方向性自体にまで立ち戻って考える必要はないということだ。営業部長の役割は「売上を上げる」であり、品質管理部長の役割は「品質を維持・向上させる」であり、コストセンターを司る部長の役割は「コストを最大限抑える」である。そこには矛盾が存在せず、ひとつの方向に向かっていけばよい。

 しかし、経営となると、売上“と”コスト“と”品質“と”という相反する可能性のある2つ以上の関数が絡む連立方程式で、自分なりの最適解を導かねばならない。あるいは、株主“と”従業員“と”顧客“と” いった矛盾する可能性のある2つ以上の要素を同時に満足させなければならない。相反を成り立たせ、矛盾を解く。正解のないことだから、考え抜くしかないのだ。

経営人材育成が課題になった背景

  「経営人材が育っていない」という相談をよく受けるようになったのは10年ほど前だ。背景を聞くと、異口同音に次のような答えが返ってきた。

“「失われた20年」は余裕がない時代だったので、昭和の時代には当たり前だった企業内での人材ローテーションができなかった。1人の人材が一つの部署で専門性を高めていくのは効率的だったし、部署の側も優秀な人材ほど外に出したがらなかった。しかし、事業本部どころか事業部からも出たことのない20年選手の人材が、いよいよ次世代の事業部長や経営人材候補になり、経験の偏りや視野の狭さが課題となっている。何かよい育成プログラムはないだろうか。”

 まずは「簡単に育成できる特効薬のようなものはない」と釘を刺した。その上で、視野を拡げる工夫をできる限り盛りこみ、経営人材として必要なマインドセットやスキルセットを一通り学べるプログラムを提供した。また、短期間で1人の力を劇的に高めることは難しいと考え、経営チームとして力を高めることを目指し、互いに補完し合いながら経営を司ることを疑似的に経験する場を設けることなどを行った。

 しかし、このとき多くの企業が、「やはり、長期的な視点で経営人材を育成するためには、ローテーションが重要だ」という認識を新たにしたことが印象に残っている。我々はむしろ、ローテーションの役割は終わったと認識すべきではないか、と違和感が残った。ローテーションは確かに一定の意味はあると思うが、社内の様々な部署を経験している、社内のことを広く分かっている、ことをもってして、“幅広い”経験、“広い”視野というのでは、前提が根本から違っている。

経験を通じた育成の限界

  こうした経緯を経て、最近は次世代経営人材育成の場として「子会社での経営経験」を重視する企業が増えた。かつてあった、“子会社は本流から外れた人が行くところ”といった認識は一新されつつある。やはり小さくてもトップ、即ち後ろ盾がない状態や、赤字などの大きな苦しみといった経験が、経営に求められる人材育成にもってこいというわけだ。実際、子会社から本社の経営人材に抜擢される人も、かつてないほど目にするようになった。

 しかし、人材育成を子会社のポストに頼るのも、心もとない。ポストが空かない限り、配置転換は実現できないし、育成のためだけに配置転換させるわけにはいかない。また、子会社への出向は、外の空気と触れて視野を拡げる経験というより、あくまで、“社内”ローテーションの一部・延長といえよう。
 さらに言えば、子会社の経営を経験することで、これまでも経営者として必要な経験とされてきたことの一部は経験できても、未来の経営に求められる知見や能力が獲得できるかどうかは不確かだ。
  次世代経営人材の育成にあたり、社内ローテーションや子会社でのトップ経験など、リーダーシップ・パイプラインの重要性は十分に認識している企業は多いだろう。しかし、それに加えて、未来の経営に求められる知見や能力は明確になっているだろうか。そして、時間をかけてそれらを醸成・獲得するプログラムを効果的に提供できているだろうか。

「未来の経営」に求められる知見や能力とは何か

 未来の経営に求められる知見や能力として、例えば、次のようなことが挙げられる。

  • 自社をより利するためにということではなく、「社会の課題を解決する」ためにという視点
  • 既存事業を運営する能力ではなく、「未来の新たな成長事業を創り出す」能力
  • 部下を動かすだけではなく、「異業種人材を共感で巻き込む」ことでことを成せるコミュニケーション力

このような知見の提供や能力の強化は、経験からだけではなかなか身につけにくい。プログラムで補完することが効果的だ。プログラムで、気づきや視点、あるいは少なくともきっかけを提供できる。

 経営人材育成は、長期的な視点でリーダーシップ・パイプラインが円滑に流れるようにすることと、タイミングを見計らって適時、将来の経営に必要な知見や能力向上のプログラムを提供することの両方が必要と考える。

次世代経営人材を効果的に育成するために

ここからは、次世代経営人材の育成を効果的にするためのプログラムを紹介したい。次世代経営人材育成のための具体的な方法についてのヒントを得てほしい。

エグゼクティブ・コーチング(サクセサー・コーチング)

 次世代経営人材候補(サクセサー)を選出し、エグゼクティブ・コーチを付ける。半年程度の期間をかけてじっくり行うことが多い。

 成熟した大人の成長には、「経験・内省・客観視」が欠かせないと言われる。特に、経験はたくさんしていても、それを元に内省することが少ないので、大人の成長は鈍化するとされる。また、効果的に内省するためには、客観視(周囲からフィードバックをもらう)が欠かせないとされる。経営人材になってからでは十分に時間がとれないことが想定されるので、経営人材候補の期間中に十分内省する時間をとり、内省する習慣をつけておくことが肝要だ。

 エグゼクティブコーチングには様々な手法があるが、ここでは我々がよく使用する「3つのツール」による自身の現在位置の把握をご紹介しよう。カーナビのGPSが3つの衛星からの距離で自車位置”を特定しているように、“自分のリーダーシップの現在地”を明確にするために3つのツールを活用する。

1)360度フィードバックによる客観視(TLCなど)
2)自分の心の利き手を理解し自分をより生かすための座標軸の設定(MBTI-Qなど)
3)潜在意識(潜在意識下で働く自身の自動制御)のあぶり出し(Firo-Bなど)

GIA for Executives (次世代経営幹部向けGIA)

  GIA(Global、Innovative、Authentic)を次世代リーダーに求められるキーワードと考え、新興国に行って「この国の社会課題解決のために自社の事業を通じて何ができるか」を考え抜く経験をするGIAリーダーの旅プログラムを、我々は長年多くのリーダー達に提供してきた。

 スリランカやカンボジアを実際に訪れ、ホームステイなどを通じて世界の社会課題を肌で感じたり、異文化や異国の人達と触れて彼らとの対話から学んだり、修羅場体験を通じて自身のリーダーシップを振り返り、成長につなげていく。2020年はコロナ禍で、カンボジアやザンビアとオンラインで繋いで行うプログラムに切替えて実施したが、オンラインだから参加できたという人も少なくなく、今年もオンラインで実施する予定だ。

次世代経営人材(サクセサー候補)を育成するプログラムとしてGIAに参加させたいという声が多くなったので、本年より「GIA for Executives」というコースを新設した。異業種各社の次世代経営人材が集まる。各企業からの次世代経営人材に求める下記のような声に基づいてプログラムを開発した。

「目の前の事業を牽引する力は十分にあるが…」
⇒次世代経営人材として「自社の“未来を考え抜く”経験をさせたい

「これまで事業のフロントに立ち続け学びの場は必ずしも十分ではなかった…」
⇒次世代経営人材として「世の中の潮流や新たな視点・考え方を学び“引き出し”を増やしてほしい」

「社内でのキャリアは豊富でも他流試合の経験が少ない…」
⇒次世代経営人材として「他社の次世代リーダーとの協働から“刺激”を得て/与えてほしい」

「これまでのやり方・考え方が通用しない場面で力を発揮する機会がなかなかない…」
⇒次世代経営人材として「自身の価値観を揺さぶる“一皮むける”体験をしてほしい」

次世代経営人材ワークショップ

 社内の次世代経営人材が集まり、経営トピックでディスカッションする場をもつことも有益だ。我々はその設計からファシリテーションまでをよくお手伝いしている。

 研修というより、ワークショップといった方がイメージしやすいだろうか。トレーニングを兼ねたものも多い。現在の経営陣も加わりながらも、あくまでも次世代経営人材が中心となって考え、議論する建付けが求められる。
 テーマも様々だ。
 例えば「戦略」を再考するということもあれば、「新規事業」を検討することもある。最近では、「パーパス(社会にとっての企業の存在意義)」をテーマにしてほしいという要望をいただくことが少なくない。
 「パーパス」をテーマにする場合は、SDGsやESGを紐解くことと、自社にひきつけて検討することの両輪が必要とされる。単に議論のアウトプットを出すということだけに留まらず、経営人材の育成という観点で、志が醸成されるようなプロセスの設計がカギとなる。

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