コラム

2023.01.06(金) コラム

■「パーパスを絵に描いた餅にするなかれ(その2)~パーパス経営の4つの要件と5つの要素」

 前回、「パーパス経営」を絵に描いた餅にするなかれ~人事はどう貢献しますか?の記事では、パーパスの意味や意義、そして人財部門の役割についてご紹介しました。今回は、ピープルフォーカス・コンサルティングが協働するFSG※のフレームワークを用いて、パーパス経営を実践していくための4つの要件と5つの要素について考察します。
※FSGは、マイケル・ポーター氏とマーク・クレマー氏が共同設立したCSV(共有価値の創造)の世界的な専門家集団です。

SAPS:パーパスの4要件

 FSGは、パーパスの要件として、Significant(社会的な重要性)・Authentic(真正である)・Profitable(経済価値を生む),・Serious(真剣である)の4つを挙げています。その4つについてFSGがまとめた『Purpose Playbook』から引用して解説しましょう。

Significant(社会的重要性):国連の持続可能な開発目標(SDGs)が明示するような、未だ解決されない社会・環境課題に貢献する意義のあるパーパスを掲げること。

Authentic(真正性):パーパスが企業文化に反映され、その歴史に根ざし、企業活動のはしばしに表れていること。真のパーパスを持つ企業には、パーパスに反する戦略は存在しない。

Profitable(経済的価値):パーパスが有意な利益を生むようにすること。そうなれば企業は、社会・環境問題の要因をさらに深く理解し、解決に向けてさらに大きな投資を行って他の組織と連携し、その取り組みの規模を最大化する明確なインセンティブを得ることができる。

Serious(真剣さ):経営陣および管理職にパーパス達成の責任を持たせること。業績目標そして理想的には報酬体系に反映させる。

 御社のパーパスは、この4つすなわちSAPSの要件を満たしているでしょうか?経営陣の間で、いちど検証してはいかがでしょうか?

パーパスに必要な5つの要素

 では、次に、FSGが定める「パーパス経営に必要な5つの要素」をご紹介しましょう。それは、下図のとおり、①パーパスでリードする、②企業文化、③戦略、④オペレーション、⑤人財の5つです。

FSGのPurpose Playbookより(ピープルフォーカス・コンサルティングが加筆修正)

パーパスは自社をリードするに足る内容か

 ひとつめの「パーパスでリードする」に関しては、そもそものパーパスが、自社をリードするに足る内容になっているかが問われます。

 パーパスとは、自社の社会における存在意義を意味し、それは経営者が「自社は何のために存在するのか」を考え抜き、さらには様々なステークホルダーとの対話を重ね、見出すものです。実際、弊社が接する経営者の中にも「1年間くらい考え抜いた」と言う方もいらっしゃいます。そうしてできあがったパーパスであれば、経営層がパーパスでリードすることに難はないでしょう。

 しかし、パーパスの策定を経営企画部門等に任せてしまっている企業も見受けられます。これでは、経営者が情熱をもってパーパスを語ることはできないでしょう。さらには、広告代理店に作ってもらっている企業すらありますが、パーパスはキャッチコピーではありません。パーパス経営のベストプラクティス企業を参照してみると、たとえばソニーの「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」や味の素の「アミノ酸のはたらきで、食と健康の課題を解決する企業に」のように、キャッチコピー的とは一線を画しています。

 また、古くからある社是や創業者理念をそのままパーパスとしているケースも時折、見受けられます。もちろん今の時代に通用するものであれば、それでもよいでしょう。しかし、長く通用する理念は、往々にして、「社会の発展に寄与する」とか「顧客に尽くす」といったように、普遍性が高すぎて、経営の指針となりづらいものです。

 もし、御社のパーパスがこれらの例に当てはまるようであれば、残りの4つの要素を追求しようとしても難しくなります。パーパスそのものを見直す必要があるかもしれません。

パーパス経営に適した企業文化を有しているか

 パーパス経営のふたつめの要素は企業文化です。パーパス浸透に取り組むある企業では、このような声が現場から上がりました。

「これまでは、売上、コスト、利益、納期を徹底することがすべてだった。ここにきて、いきなり『社会価値の創出を』と言われても当惑しかない。」

 企業文化とは、企業が大切にする価値観を土台として醸成されてくると言われています。企業文化を変えることは、自社の価値観を見直すことでもあり、大変な労力と時間が必要になりますが、もし御社の企業文化が業績に偏重している場合は、企業文化改革から取り組まなくてならないということになります。

 なお、FSGは従来の企業文化と共有価値を重んじる文化の違いを以下のように整理しています。

CSV戦略を立案し実行できるリーダーを育成する

 5つの要素のうち、戦略、オペレーション、人財の3つについては、ここでは、かいつまんで解説します。

 パーパスが、社会課題解決を謳っている以上、パーパス経営にはCSVビジネスが不可欠になります。CSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)とは、社会価値(社会の持続可能性にとってプラスとなること)と経済価値(企業の持続可能性にとってプラスとなること、つまり利益)の両方を最大化するようなビジネスを構築することです。

 CSVビジネスは通常のビジネスと異なる点が多々ありますが、CSVビジネス特有のポイントとして、戦略立案においては社会課題起点でビジネス機会を見出すこと、戦略遂行(オペレーション)においては異業種や異セクターのプレーヤーを巻き込み「エコシステム」を構築・運営することなどが挙げられます。

 このように従来とは異なる方法で戦略を立案し遂行できるリーダー、すなわちCSVリーダーの育成こそが、5つ目の要素である「人財」の要になります。パーパスを絵に描いた餅に終わらせないための人財部門の出番となります。

パーパスを実現できる人財の育成

 2022年11月15日にはPFC・FSG共催の無料ウェビナーを開催しました。味の素様の具体事例も取り上げました。
 スピーカーは:
・FSGマネージング・ディレクター兼アジア事業担当リーダー リシ・アガワル氏、
・味の素株式会社 特別顧問(前 取締役 代表執行役副社長 CDO) 福士博司氏

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