コラム

2024.02.01(木) コラム

マイクロアグレッション:そのDE&Iは職場風土を変える取組みになっていますか? ~職場の「マイクロアグレッション」を考える

 「マイクロアグレッション(Microaggression)」という言葉をご存知でしょうか? 

 マイクロアグレッションとは、「日常的に職場環境から受ける言語的/非言語的な軽蔑や侮辱のことで、意図的であるかそうでないかにかかわらず、疎外された集団の一員であることに起因して、敵意や軽蔑、否定的なメッセージを対象者に伝えるもの」(Derald Wing Sue Ph.D.)と定義されています。 

 DE&Iにとりくむ企業の人事/人材育成の皆様には気になるコンセプトではないでしょうか。この記事では、PFCが提携するケン・ブランチャード社(以下KBC)のサイトで2022年に紹介された内容を引用しながら、マイクロアグレッションについてご紹介します。(原文はこちら

マイクロアグレッションとは何か? 

 元記事の著者、Diana Johnson Urbina氏によると、マイクロアグレッションは「常に意図的であったり、明示的であったりするわけではない。マイクロアグレッションの中傷的な性質は、日常的な慣習や文化的なスラング、会話の中にさりげなく隠されている。(中略)多くの人は、単純な褒め言葉や質問がそう受け取られかねないことに気づいていないのだ」とされています。マイクロアグレッションは、私たちのアンコンシャス(無意識)バイアスが作用したものだと言えるでしょう。 

 どんな例がありうるかというと、 

•「彼女はバリキャリですけど、怖くないですよ!」
(有能な女性社員を顧客に紹介する上司の発言)

•「おじさんでもわかるマニュアルを作りました!」
(ITスキルをリスキリング中のシニアを前にした年下同僚の発言 )

•「日本人より日本人らしい内気な○○さんです」
(日本企業に適応した外国人社員を紹介する同僚の発言) 

 このように、マイクロアグレッションに関しては誰も罪はなく、私たちは皆知らず知らずのうちにそうした行為に及んだり、身の回りで起きているマイクロアグレッションを見過ごしたりしたりしています。 

マイクロアグレッションを放置するとどうなるか? 

  ウルビナ氏はこう述べています。

「マイクロアグレッションは、その言葉を発した本人にとっては無害なものである。しかし長期間にわたって定期的に行われると、受け手側の自尊心の低下、屈辱感、人間性の喪失といった精神衛生上の問題を引き起こす可能性が高まる。マイクロアグレッションはまた、敵対的な職場環境に発展することもある。そうなると生産性や学習の低下につながり、最終的には定着率の低下につながる。人は居心地の良い環境で働きたいと思うものだ。職場環境が友好的に感じられない、マネージャーやチームメンバーが、マイクロアグレッションの存在や受け手がどう感じるかに無頓着で在り続けるならば、対象となった人は離れていくだろう。」 

ひとつのマイクロアグレッションは蚊に刺されたようなもので、ちょっとイラつく不快な出来事だ。しかし、何百ものマイクロアグレッションは何百もの蚊に刺されたようなもので、我慢しがたいトラウマを形成する。」 

https://resources.blanchard.com/blanchard-leaderchat/addressing-microaggressions-in-the-workplace?prevItm=0&prevCol=487506&ts=27542

マイクロアグレッションにどう対処するか? 

 ウルビナ氏は、マイクロアグレッションへの対処策として、以下を紹介していますので、興味のある方はぜひ原文をお読みください。 

・受け手側への処方箋(自身が傷ついていることを放置せず、アサーティブに周囲に対処するための思考法とコミュニケーション・スキル) 

・加害側になってしまっているときの処方箋(自身のマイクロアグレッション行動に気づいたり、または指摘を受けたときの受け止め方) 

 ウルビナ氏は、マイクロアグレッションは意図的ではなく無意識に起こるものであり、また自身が加害側になっていることを受け止めることは簡単ではないが、それはリーダーとしての成長に大きく寄与する貴重な経験をもたらすのだ、と綴っています。 

DE&I風土醸成のために何をすべきか? ~アンコンシャスバイアスの知識学習を超えて 

 日立製作所は4月から、社員の多様性への取組を人事評価に盛りこみ、従業員が性別や国籍などダイバーシティ(多様性)に配慮して働いた場合、人事評価と報酬を引き上げる方針を発表しました。 

 ジェンダー・ギャップ・ランキングでは、昨年、過去最低の125位を拝した日本。人的資本経営を実践するためにも企業のDE&Iの取組は、どんどん進化させる必要があるでしょう。とりわけ、多様性に配慮した職場風土づくりは、人材獲得や定着、働きやすさを超えたクリエイティブな文化醸成のために最も注力すべき領域です。 

 多様性に配慮した職場風土づくりのために、多くの企業がアンコンシャスバイアス研修を導入しました。PFCのクライアント企業では、外資系企業はグローバル発信のオンラインコンテンツで個人学習を実施(日本拠点向けカスタマイズのご相談をいただくことが多い)、日系企業では、管理職昇格時に人事やダイバーシティ推進室が1~2時間のレクチャーもしくはディスカッションを実施、といった取り組みが多いようです。 

 アンコンシャスバイアス研修では、「誰もが無意識に形成するもので、良い悪いはない」、「個性の現れであり、指摘すべきではない」というメッセージの学習コンテンツをよく目にします。各人の多様な個性を尊重すべきことには異論はありませんが、一方で、もしマイクロアグレッションを放置し続け、せっかくの投資がクリエイティブな組織風土醸成につながっていないとしたら、それは問題です。 

DE&I風土醸成=フィードバック文化の醸成を 

 PFCでは、アンコンシャスバイアスの知識学習を超えて、組織的なバイアスや繰り返されるマイクロアグレッション体験を共有する職場単位の話し合いを、研修プログラムの一貫として盛り込んでいます。多様な感じ方をフィードバックし合える、心理的安全性の高い職場風土づくりのために、管理職の強化、メンバーの啓発から職場での話し合いの促進まで、プログラムを通じて実践できるようデザインしています。 

 エンゲージメント調査でDE&I風土醸成の状況を把握している企業が増えました。今期は変化をもたらす取組みを進化させるチャンスと言えましょう。(ピープルフォーカス・コンサルティング取締役 山田奈緒子)


【マイクロアグレッションに関連したサービス・プログラム】
アンコンシャスバイアスの知識学習を超えて職場単位でフィードバックし合えるようになるために :アンコンシャスバイアス研修個人学習用の動画講座もあります)

管理職のインクルーシブリーダーシップを高めるために :インクルーシブ・リーダーシップ(ダイバーシティ&インクルージョン)研修 

社員のマイクロアグレッションへの対応力を高めるために:アサーティブ・コミュニケーション研修


山田 奈緒子(やまだ なおこ)
ピープルフォーカス・コンサルティング
取締役